個人事業主の方でも法人の方でも、事業の成長期において「そろそろ人を雇おうかな」と思われることがありますよね。
しかし、実際に人を雇用しようとしたときに何をする必要があるのか、具体的にはよくわからない方も多いのではないでしょうか?初めて従業員を雇用した際に会社が行わなければならない手続きを社労士が解説します。
初めて従業員を雇用した時に「会社が行う手続き」を順を追ってご説明します。
①適用事業所報告(会社が行う手続き)
人を雇用することになったら報告書(「この事業場は労働基準法が適用される事業場である」ということを報告するため)を作成し、所轄労働基準監督署へ提出します。
いつまでにという明確な提出期限は設けられていませんが、「遅滞なく」と定められていますので、以下にご紹介する手続きと一緒に行っておくと漏れがないのでお勧めです。
複数店舗を開業することとなった場合には、それぞれの事業場ごとに報告が必要になります。労働法は企業単位ではなく事業場(一つの場所での組織的な作業のまとまり)ごとに手続きなどが必要になるので、一般的にはあまり馴染みがない考え方かもしれませんが、注意が必要です。
②労働保険新規適用届(会社が行う手続き)
人を雇用した日の翌日から起算して10日以内に所轄の労働基準監督署へ提出します。そうすることで、労働保険番号が付与されますので、以後その番号をもとに労災加入や雇用保険加入等さまざまな労働保険に関する手続きを行うことができます。
また、事業主が手続きをしたタイミングで労働保険関係が成立するのではなく、手続きをしていなくても労働者を雇用したその日に、法律上当然に労働保険関係は成立しています。もし、労働者を雇用したその日に、業務時間中に怪我などがあれば、「労働災害が発生した」ことになります。
よって「成立手続きをした日」ではなく、「労働者を雇用した日」に保険関係が成立しているのです。万が一手続きを怠ってしまうと、保険料の遡及請求だけでなく、労災保険給付に関する事業主負担を求められるなどのペナルティもあります。
尚、社労士Cloudでは雇用保険設置届も同時に行います。
従業員を一人でも使用している事業は、労災に関して原則として強制加入になります。
③労働保険の概算保険料申告書(会社が行う手続き)
保険関係成立後50日以内に(実務上では労働保険新規適用届と同時に行います)、その年度分の労働保険料を概算保険料として所轄の労働局や労働基準監督署、金融機関などへ申告・納付します。
また、労災保険が適用されるすべての事業主が負担する一般拠出金も計算し、概算保険料と併せて申告・納付をします。
労働保険料は、労災保険料(事業主が100%負担)と雇用保険料(労使それぞれで負担)とがあり、それぞれ行う事業の種類により保険料率が違います。
労災保険料率はかなり細かく分かれており、例えば建設の事業だけでも7種類に分かれています。労災の発生率や危険度は、行う事業の内容により違うからです。
一方で雇用保険料率はそこまで細かくなく、大まかに3つの種類に分かれます。
労働者(役員報酬や業務委託料などは含みません)に支払ったすべての賃金となります。
結婚祝い金など労働の対償ではないものは賃金には含まれませんので注意が必要です。また、支払日が翌年度だとしても、その年度内に賃金支払い義務が確定しているものはすべて含まれます。
④社会保険新規適用届(会社が行う手続き)
事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするときは、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を設立した事実の生じた日から5日以内に事業所の所在地を管轄する年金事務所に提出します。
また、新規適用の際に、雇用した従業員の資格取得に関する届け出も行う必要がありますので、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出します。
さらに、扶養に入れるべき者がいる場合には、「健康保険被扶養者(異動)届」を提出します。また、満20歳以上満60歳未満の被扶養配偶者がいる場合には、その者を国民年金の第3号被保険者とすることができますので「国民年金第3号被保険者届」も併せて提出します。
例えば「うちは小さい個人事業だから社会保険には入らないから」とお考えの事業主の方もいますが、社会保険は加入を自分で決めるのではなく、以下に該当する事業所は全て加入する必要があります。
- 全ての法人は加入が必要です。
株式会社/有限会社/合同会社などの法人の事業所は、全て社会保険の適用事業所となりますので、社会保険に加入する必要があります。
「労働者がいないから加入していない」という誤解もありますが、いわゆる「一人社長」と言われる労働者を一人も雇っていない法人でも、加入する必要があります。
- 個人の事業所でも、業種と労働者数で社会保険の適用事業所になります
また、個人の事業所についても、労働者が常時5人以上いる場合は、農林漁業、サービス業などの場合を除いて強制加入の対象です。
サービス業の具体的な業種としては、飲食店、接客業、理・美容業、旅館業等 サービス業、法律・会計事務所等の自由業等は適用対象外となるので、加入は任意となります。
※令和4年10月より新たに以下の士業が適用対象となります。
それ社会保険適用事業所以外の事業所でも、任意加入(加入したい場合は必要な書類を添付し届出をする)することが可能です。
⑤36協定(会社が行う手続き)
残業や休日出勤をした際には、割増賃金を支払うことはご存じの方も多いかと思いますが、労働時間は労働基準法によって上限が定められていています。
それらを超えて労働させる場合には、労使による協定(時間外・休日労働に関する協定書、通称36協定)を締結して、労働基準監督署に届出をしなければなりません。
この届出手続きをせずに、残業や休日出勤をさせてしまうと、労働基準法違反となりますので、少しでも可能性があるのであれば、締結及び届出をしていただくことをお勧めします。
違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があるため、企業は従業員に対してこの労働時間を超える労働を科さないように注意しなくてはいけません。
- 雇用保険の資格取得(雇用保険)
- 社会保険の資格取得(健康保険・厚生年金)
- 被扶養者異動届(家族への保険証)
①雇用保険被保険者資格取得届(従業員の雇用保険加入)
雇用した日の翌月10日までに所轄のハローワークへ提出します。
初めての手続きの場合は、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書など実態がわかる添付書類も必要となります。
アルバイト、正社員などの雇用区分ではなく、その雇用する方が、
・31日以上雇用されることが見込まれること
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること
となります。
また、雇用保険に加入するためには、まず事業場に関する手続きをし、その後、個人に関する手続きをします。
②社会保険資格取得届(従業員の社会保険加入)
提出者は事業主で、雇用してから5日以内と、申請者と期限が定められている点がポイントで、流れは次の通りです。
- 従業員を雇用する
- 従業員から年金手帳(基礎年金番号通知書)またはマイナンバーカードを提示してもらう
- 雇用から5日以内に被保険者資格取得届を日本年金機構に提出する
申請は事業主が行いますが、個人情報は従業員から提示してもらう必要があります。期日もあるので、できるだけ早く提出してもらうようにしましょう。
・常時雇用されている労働者
・週の所定労働時間または月の所定労働時間が常時使用されている労働者の3/4以上の者
となります。
よくある誤解として、「正社員だけ加入させれば良い」とお考えの事業主の方もいらっしゃいますが、雇用区分ではなく、その方の労働時間により加入の必要が生じます。例えば、正社員が週40時間勤務の事業所で、パート社員の方が週30時間勤務でしたらこのパートの方は社会保険の加入が必要になります。
また、雇用期間についても「有期契約は必要ない」とお考えの事業主の方もいらっしゃいますが、これもよくある誤解で、「2ヶ月以内の期間を定めて雇用される場合」は加入不要ですが、その後契約を延長した場合はその日から加入が必要になります。また2ヶ月間は試用期間でその後は正社員登用するなど、元々長期雇用が見込まれている場合は、当初から加入する必要があります。
近年の法改正により、また今後施行が決まっているものでも、社会保険加入対象者の条件は引き下がってきておりますので、パートやアルバイト、短時間勤務の方でも事業所の労働者数により対象となるケースがあるので注意が必要になります。
③被扶養者異動届(家族の社会保険加入)
被扶養者異動届は、従業員の結婚、配偶者や子供の出生・就職・死亡などにより、健康保険や厚生年金保険に加入する従業員の被扶養者として追加・削除・氏名変更などがあった場合に届け出る書類です。事実が発生してから5日以内に、管轄の年金事務所や健康保険組合等へ勤務先を経由して提出することが定められており、届出が完了すると従業員の家族等が被扶養者に認定されます。
被扶養者(異動)届を提出すると、対象となる家族等が収入のない専業主婦(主夫)やパートなどで給与収入を得ている場合でも、「被扶養者」の要件を満たしていれば被保険者の扶養家族として疾病や負傷など必要な保険給付を受けることができます。
人を雇用するときに必要となることについてご説明しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
労働に関する手続きは、事業場ごと初回1回しか行わない手続きが多くありますが、労働者を雇用した時点で事業主の義務が生じていることから、必ず行わなければならないものがほとんどです。
ですが、例えば労働時間管理の考え方を知らずにいることで、実は法定労働時間を超えていて、残業代の未払いが生じていることもあります。
労働法違反となれば、もちろん罰則や罰金などもありますが、コンプライアンス遵守意識の高まりから、労働法違反をした事業主として、取引先からの契約解除、労働者の離職、企業名公表など、事業経営そのものが危ぶまれるような事態に陥ることも有り得ます。
労働保険は、きちんと加入しておくことで、万が一、障害が残るような業務上の事故や死亡事故につながるような労災が生じた場合に、労災保険から障害補償や遺族補償を受けることもできます。
また、雇用保険においてはコロナ禍でも話題になった「雇用調整金」等の受給で雇用継続することができ、また、万が一労働者を整理解雇するような経営悪化に陥ったとしても、労働者がハローワークで手続きをすることで、失業手当が受けられます。
事業主がルールを守るからこそ、事業主と労働者がルールに守られる仕組みが労働保険にはあることを、ご理解いただけますと幸いです。
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生島社労士事務所代表
生島 亮
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